- 2010-07-04 (日) 21:20
- 本
子供の頃からもともと割と本の虫なんですが、久しぶりに読み応えのある本が、特にSFでは本当に久しぶりに読めたので、軽く書評でも気取ってみたいと思います。
まずはじめに、表紙に騙されてはいけません!一見するとラノベ調のタイトルに萌えキャラと、帯から判るようにアンドロイド主題のSFですが、これは作者が完璧に理解した上で張った罠です。実際の本はハードカバーサイズの400pフルスペック、しかも中身は今やなかなか良作には出会わないという生粋のハードSFです。オレも「またまたこんな表紙使っちゃって」と軽い気持ちで手にとったんですが、パラパラ捲ったところでこれは良い方に裏切られる!と即座にレジに持って行きました。
舞台は近未来の関東。難病持ちのヒキオタが、やはり難病で死亡したネット友達から、最高の機能と完璧な容姿を持つ最新型の医療補助用第四世代人型AI”ゼルフィ・シュプリムTBA”を遺産相続するところから話が始まります。ここまでの件にはアキバ系の小ネタが織り混ぜられ、その道の人はニヤリとする場面が連発します。(例えば、人型AIの製造元VN社”ヴォーグス・ナノテク”は、ガレキ製造販売のボークスが由来)非コミュの主人公と無垢なAIとの出会いは甘々なラブコメ展開を予感させますが、別の場面では裏社会の陰惨なAIスナッフィング(陵辱と拷問)の現場で対象の人型AIが暴走し、人間への反逆と取れる殺戮が書かれ、主人公とAIは次第に陰謀と事件に巻き込まれていきます。
事件の核心に迫る過程では、人工知能の歴史と問題点、”意識”の発生と生命倫理、ポストヒューマンとしての人工生命の可能性などの多くのサブテーマが丹念に書かれています。やや話を詰め込みすぎてる感がありますが、作者は本職が勤務医さんとのことで、パラサイトイヴの瀬名さんを彷彿とさせる丁寧で緻密なSF的世界観です。個人的に把握してる範囲で挙げれば、アシモフ作品に始まり、ヴァーチャルガール、ブレードランナー、究極超人あ~る、銃夢、The Five Star Storys(ファティマ)、ToHeart(HMX-12マルチ)、攻殻機動隊といった、あらゆるジャンルの連綿たる人型AI・アンドロイドものSFの要素を数多く内包し、それらを上手く昇華して新しい解釈、結末へと辿り着いてると思います。
ただし後半~終盤が非常に読み解き辛い。二度読みしてなんとか8割わかったかな、ってとこ。テーマが広すぎるのと難解なメタファーが多く、わざと曖昧にしている部分が多すぎます。最近は自分もラノベを初めとした平易な小説に慣れすぎてる感もあり、正解を曖昧にして読者の考察と解釈に委ねるという箇所についてはそれも甘んじて受けますが。でも前半のSF的解説厨と後半の置き去りペースのギャップはちょっと不親切すぎるかなぁと思います。あと後半は前半より場面や状況の描写が分かりづらいかな。スピードが早過ぎる。上下で600pくらいはかけて欲しかったです。(新人だっての)
読書感としては、ギャルゲーメーカーですがニトロプラスの殺伐さを思い起こさせました。やってないけどカオスヘッドとかシュタインズゲートってこんなカンジかなー、とか。主従関係、人間には絶対服従、人権無き人型の扱いというAIの背景に序盤はファティマを強く想起しましたが、最終的には全身義体や脳の量子化という要素で銃夢、攻殻に収束したイメージです。特にオチの一部は原作・劇場版素子への新しい解答に成り得ると思うので、そのあたりが特に好きな人は是非読んでみて欲しいです。
3次元の存在であるアンドロイドがヒロインなのに、”脳内彼女”というスラングを想起させるタイトルの名づけの引っ掛けは見事でした。
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